結論から先に言えば、世界と戦うために私が大切にしてきたのは、才能でも根性でもなく、「大きな目標を、毎日測れる小さな目標に分解し続ける」という地道な作業でした。2009年ベルリンで日本人男子初のやり投げメダリストになった私、村上幸史が、京都・西院のセミパーソナルジム Y-TRAINING の指導責任者として、その考え方を選手にも保護者にも使える形でお伝えします。
2009年ベルリン、日本人男子初のやり投げメダリストになった日
2009年8月、ドイツ・ベルリンの世界陸上競技選手権。私は予選で83m10(当時の日本歴代2位)を投げて決勝に進み、決勝の2投目で82m97を記録して銅メダルを手にしました。やり投げで、日本人男子として初めてのメダルでした。世界陸上のフィールド種目では、室伏広治さんに次ぐ日本人2人目のメダリストです。正直、投げ終えてしばらくは、自分に何が起きたのか実感が湧きませんでした。
ただ、この記事で書きたいのはメダルの自慢話ではありません。私がベルリンにたどり着くまでに、毎日の練習で何を考え、何を積み重ねていたのか。そこには、競技をしている選手だけでなく、お子さんを応援する保護者の方や、体を変えたい一般の方にもそのまま使える考え方があると思っています。順番に分けてお話しします。

方法論1:大きな目標を「集めるピース」に分解する
オリンピック出場を目標にしていた頃、私が実際にやっていたのは「オリンピックに出るためのピースを、どれだけ集められるか」というゲームのような発想でした。多くの選手は記録そのものを意識しがちですが、私は少し違って、記録より「自分が強くなる要素」を集めることに注力していました。
そのために、毎日のトレーニングでは筋力そのものよりも、「走る」「跳ぶ」の能力をどれだけ上げられるかを、1日の小さな目標にしていました。具体的には、次のような数値を毎日のように測っていました。
| 毎日測っていた項目 | 鍛えたかった能力 |
|---|---|
| 30メートル走のタイム | 「走る」スピードと加速 |
| 立ち幅跳びの記録 | 「跳ぶ」一瞬の瞬発力 |
| 立ち五段跳びの記録 | 連続跳躍のリズムと、地面から体への力の伝達 |
やり投げの記録は、風やコンディションで大きくブレます。そこだけを見ていると、良い日と悪い日で気持ちが上下してしまう。けれど「30メートル走が少し速くなった」「昨日より遠くへ跳べた」という要素は、自分の成長として素直に積み上がっていきます。これが、私にとってのピース集めでした。
これは競技に限った話ではないと思います。「いつか世界で」「半年で体を変えたい」という大きな目標ほど、そのままだと遠すぎて手が止まります。今日測れる小さな数字に置き換える。その一つひとつが集まった先に、大きな目標がある——私はそう考えて毎日を過ごしていました。この「走る・跳ぶ・投げる」を土台にする考え方は、他の競技にも応用できると私は考えています。詳しくは陸上競技メソッドがなぜ他の競技にも効くのかにまとめています。
方法論2:「最も近く感じた瞬間」を次の原動力にする
私にとって大きな転機になったのは、2008年の北京オリンピックでした。北京はメダルには届かず、予選で敗れています。それでも、ずっと目標にしていた「世界ベスト8の壁」を、これまでで最も近くに感じられた大会でした。
世界との距離が一番近く感じられ、「目標を明確にすれば、実現できるところまで来ている」と思えた——あの瞬間の手応えが、翌年ベルリンの原動力になったのは間違いありません。届かなかった悔しさと、あと少しだったという確かな感触。その両方が、次の一年を支えてくれました。
読者の方にお伝えしたいのは、うまくいかなかった試合をただの失敗で終わらせないでほしい、ということです。「一番惜しかった瞬間」「あと少しだと体で感じた瞬間」は、次の挑戦の火種になります。結果が出なかった日ほど、その日に何が近づいたのかを書き留めておく。私はそうやって、悔しさを燃料に変えてきました。
方法論3:普段の練習に「心的負荷」を足しておく
普段のトレーニングに、あえて心的な負荷を加えることを、私は当たり前にしていました。ただ回数をこなす、決められたメニューをただ消化する——そういう義務的なトレーニングは、本番のパフォーマンスにはつながらない。これは私の信念です。
本番のピットに立ったとき、最後に自分を支えてくれるのは、体力でも技術でもなく「この為にやって来たんだ」と、その場で心から思える気持ちの強さでした。だからこそ、普段の練習でどれだけ深いところを目指して姿勢をとれるかが勝負になります。一本一本を「本番のつもり」で投げておくと、私の場合は本当の本番でも落ち着きやすくなりました。
これは、試合で緊張して力が出せないという悩みへの、私なりの答えでもあります。本番だけ特別に強くなろうとするのではなく、普段の一本に少しだけ本番の重みを乗せておく。そうしておくと、当日の景色がいつもの延長線上に見えてきます。

方法論4:自分が成長できる「原点」を持つ
世界と戦う選手には、海外で合宿を張る人もいます。けれど私は、大会以外のことは国内で一貫させることにこだわっていました。海外だろうが国内だろうが関係ない、国内で全てをやり切って世界で戦う——それが私の一つのこだわりでした。
特に大切にしていたのが、やり投げを始めた母校のグラウンドでのトレーニングです。そこには、自分が成長した瞬間や、迷ったときに取り組んだ練習など、数々の記憶とひらめきが残っていました。うまくいかないとき、原点に戻ると答えのかけらが落ちている。私の勝負強さの秘密があるとすれば、この「戻れる場所を持っていたこと」だと思います。
読者の方も、豪華な設備や遠い環境を探す前に、自分が本気になれる場所、成長を思い出せる原点を一つ持っておくと、迷ったときに強いと思います。今、京都・西院で選手や一般の方の指導をしている私にとっては、この考え方が指導の土台にもなっています。
後編へ:世界と戦う本番の心境と、若い選手へ
ここまでお話しした4つの方法論を、あらためて整理しておきます。私の実体験と、あなたに転用できる形を並べてみました。
| 方法論 | 私の実体験 | あなたへの転用 |
|---|---|---|
| 目標を分解する | 「オリンピック出場」を毎日の走・跳の数値に落とし込んだ | 大きな夢を、今日測れる小さな数字に変える |
| 惜しさを燃料にする | 北京で感じた「あと少し」を翌年ベルリンの原動力に | 一番悔しかった瞬間を、次の挑戦の火種にする |
| 練習に心的負荷を足す | 普段から「本番のつもり」で一本を投げた | 義務ではなく「この為に」と思える練習にする |
| 原点となる環境を持つ | 母校のグラウンドで最後まで戦い続けた | 成長を思い出せる場所・戻れる原点を持つ |
後編では、いよいよベルリンの決勝ピットで私が何を考えていたのか、世界と戦うときの本番の心境と、これから世界を目指す若い選手へのメッセージをお話しします。続きは村上幸史・ベルリン2009 後編をご覧ください。また、こうした陸上の考え方を野球など他競技の指導にどう落とし込んでいるかは、やり投げのメダリストが野球を指導できる理由にまとめています。
私、村上幸史がここでお話しした「目標設定」や「本番の準備」は、体を動かすすべての方に通じる考え方だと思っています。京都・西院のセミパーソナルジム Y-TRAINING は、私が指導責任者を務める、最大5名・1回60分の少人数指導のジムです。所在は右京区・梅津、阪急「西院」駅・「西京極」駅から車で4分、駐車場もあります。10:00〜20:00(水曜定休)、無料体験(60分)もご用意していますので、自分の目標をどう分解すればいいか一緒に考えたい方は、気軽にお越しください。
目標設定の方法は、やり投げ以外の競技や運動が苦手な人にも使えますか?
使えると思っています。私がやっていたのは、遠い目標を「今日測れる小さな数字」に置き換えることで、これは競技の種類を問いません。運動が苦手な方でも、体重や歩数、続けられた日数など、自分が積み上げられる要素を一つ決めるところから始められます。
試合本番で緊張して、いつもの力が出せません。どうすればいいですか?
本番だけ特別に強くなろうとするより、普段の一本に少しだけ本番の重みを乗せておくことをおすすめします。私は普段の練習に心的な負荷を加えて、当日の景色をいつもの延長線上に見えるようにしていました。「この為にやって来た」と思える準備の量が、当日の落ち着きにつながります。
京都・西院のY-TRAININGでは、村上さん本人が指導してくれますか?無料体験はありますか?
私が指導責任者として、指導と監修にあたっています。担当トレーナーはご予約時にご確認ください。Y-TRAINING は最大5名・1回60分・完全予約制のセミパーソナルジムで、無料体験(60分)もご用意しています。右京区・梅津、阪急「西院」駅・「西京極」駅から車で4分、駐車場ありです。10:00〜20:00(水曜定休)で承っていますので、まずは体験でお試しください。